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アメリカのPA(Physician Assistant)制度:医師と看護師の間を埋める専門職

はじめに

日本にはない、医師と看護師の中間のような職種としてPhysician Assistant(略称PA)があります。約60年ほど前から存在するアメリカの公的な医療資格職の一種であり、当地の医療現場で活躍する高度な専門職として、医師の指導のもとで診療を行う資格を持つ医療従事者です。

元は、ベトナム戦争の帰還兵のうち、衛生兵として軍務を果たした経歴をもつ者に、簡易的な大学教育と臨床経験を積ませ、医師の補助として雇用を開始したことが本制度の始まりです。これには、ベトナムからの帰還兵の雇用促進と、コミュニティの医療従事者不足を解消する狙いがありました。

全くのゼロから医師を大量に新しく養成するよりは、軍属として実際に人体の治療や傷病対処に携わった経験のある者を帰還兵の中から抽出して集中的に特訓させたほうが、養成に係る公的財源も少なくて良いという狙いもあったと思われます。泥沼化したベトナム戦争で疲弊し、戦費に多大な税収を費やしてきたリンドン・ジョンソン政権が思い付いた苦肉の策と言われてはいますが、イギリスなど諸外国でもその後、当該制度が導入されている国もあります。

アメリカでは毎年5000人が新たにPAの資格を取得するとされていて、今や全米の医療現場には欠かせない職種です。PAは医師と看護師の中間=ミッドレベルの医療従事者ということで、当地ではMid-Leveled medical providerというカテゴリで考えられています。今回の記事では、日本では未だあまり知られていないその役割や教育制度、仕事内容について詳しく説明します。

PAの役割と仕事内容

PAは、以下のような業務を行います。

  • 病歴(アナムネーゼ)聴取
  • 診察
  • 検査のオーダーと実施
  • 検査結果の診断と説明
  • 治療
  • 術前術後管理
  • 手術助手
  • インフォームドコンセント
  • カウンセリング
  • 患者教育
  • 薬剤処方
  • 専門医への紹介

具体的には

診察・診断

簡単な範囲にはなりますが、医師のように患者の診察を行い、その病状を診断します。

治療計画の立案と実施

治療方針を決定し、患者に最適な治療を提供します。

手術補助

単独での手術は禁止とされていますが、主に外科的な手術の際に医師をサポートする役割があります。内科系の手術の補助ができないわけではありませんが、そのような教育を受けたPAのみに許されています。

処方権

PAの職権のみで一定範囲の薬の処方が可能です。

PAになるための教育と資格

PAは幅広い専門分野で活動しており、内科、外科、小児科、救急医療など多岐にわたる医療現場で働いています。PAになるには厳しい学習課程と訓練を経る必要があり、以下のステップが必要です。

1. 学士号取得

多くの場合、生物学や健康科学等の関連分野で学士号を取得します。PA課程は、高校卒業者を入学させる5年制のdual entry programというもの以外は大学院教育にあたるため、通常、候補者は学士号を取得しているケースが大半です。候補者の中には元医療従事者も少なくはありません。

2. PAプログラムへの進学

大学院レベルのPAプログラム(通常2~3年:座学1000時間、実習2000時間以上)に進学し、医学知識や臨床スキルを学びます。

3. 国家試験合格

卒業後、国家試験(PANRE:Physician Assistant National Recertifying Examination)に合格することで資格が得られます。

4. 継続教育

有資格者には職能維持のために定期的な継続教育の受講並びに、積極的な生涯学習が義務付けられています。尚、それは当地では看護師資格にも言えることですが、アメリカでは日本のように資格取得後も、6年毎に免許更新のための国試受験&合格が必要とされています。

PAと他職種との違い

医師(MD/DO)との違い

医師MD(Medical Doctor)とDO(Doctor of Osteopathic Medicine)よりも短期間で資格取得が可能ですが、医師ほど独立した診療は行えません。

ナースプラクティショナー(NP)との違い

PAは看護系職種よりも特に医師に近い役割を担い、NPとは異なる教育体系と診療範囲があります。単独での開業が許されるNPに対して、PAはあくまでも医師の補助として確立された専門職であるので単独開業は出来ません。

PAはそのトレーニング段階から診療科(専門領域)別の研修を受ける一方で、NPは全診療科についての教育も一通り受けていてgeneralistとしての働きをより期待されています。つまるところ、NPの行動原理、職能、職務上での基盤はあくまでも「看護」にあるのですが、PAのそれは逆に「医学」をベースとしており、一見すると似て見えても両者はかなり違う職種であると断じることができるでしょう。

PAの重要性と課題

アメリカでは医師不足が深刻になっており、また州や地域毎の医師偏在も顕在化していますが、現在、そういった諸問題への解決策としてPAが注目され始めています。特に以下の点で重要な役割を果たしています:

医療アクセス拡大

都市部だけでなく、大病院へのアクセスがしづらい地方でも質の高い医療を提供しており、現在稼働中のPAの実に4分の1がプライマリ・ケア領域従事者と言われています。

チーム医療への貢献

患者中心のケアを実現するため、多職種連携においては当然、重要な存在となります。

一方で課題としては、市民への職務内容の認知度向上や他職種との役割分担促進などがあります(市民の中にはPAとDR、RN、NPの区別がつかない者も少なくはありません)。

PAは制度としては確立していますが、未だにPAの現場での動き方は職場毎のプロトコールや管理する医師(どの医師がそのPAをsuperviseしているか)の考え方次第でもあり、PA本人の経験範囲によってどの範囲までどんな補佐をするか、といったことがやや曖昧な範疇にあるとも言われています。

1人の医師が自身の責任の下に管理・助言(supervise)ができるPAは4人までと法で規定されており、PAの職務においては常に医師が側にいる、若しくは電話連絡等でリアルタイムでのコミュニケーション可能な環境にあることが定められています。

まとめ

常に医師の管理下にある事が前提とは言え、1967年に導入されたPAはアメリカ医療システムにおいて欠かせない存在として、高度な専門知識と臨床スキルを持ち、多様な環境で活躍しています。

2000年には50州全てにおいてPAを導入、その後の2007年には全米並びにコロンビア特別区での制度確立に至り、公的な医療職種としては制度的に一応の完成を見ました。

その教育制度や役割には参考になる点が多く、少子高齢化が進み、過疎地域に於いて医師や看護師不足が益々叫ばれるここ日本では、この職種が辿ってきた歴史的な軌跡や職務内容が、今後更に注目され得ると言えるでしょう。​​​​​​​​​​​​​​​​

©️ 2025 株式会社EUROSTUDY

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