【連載】WFMEとは⑵「世界医学教育連盟(WFME)の役割と医学教育認定の国際的動向」

はじめに
グローバル化が進む現代において、医療の質を国際的に担保することは非常に重要な課題となっています。医師の国際的な移動が増加する中で、世界各国の医学教育の質を保証するシステムの重要性はかつてないほど高まっています。その中心的役割を担っているのが、「世界医学教育連盟(World Federation for Medical Education: WFME)」です。本記事では、WFMEとは何か、その意義、そして認定を受けている世界各国の医学教育認定機関について詳しく解説します。

WFMEとは何か
世界医学教育連盟(WFME)は、1972年に設立された国際的な非政府組織で、世界保健機関(WHO)と世界医師会(WMA)の共同後援を受けています。WFMEの主な目的は、世界中の医学教育の質を向上させ、医学教育の国際的な基準を確立することにあります。本部はフランスのフェルネイ・ヴォルテールに置かれており、世界中の医学教育関係者が協力して医学教育の質保証に取り組んでいます。
WFMEは、世界の6つの地域(アフリカ、アメリカ、東地中海、ヨーロッパ、東南アジア、西太平洋)の医学教育組織と連携し、医学教育の質向上のための国際的なネットワークを構築しています。
WFMEの主な活動と役割
1. 医学教育のグローバルスタンダードの策定
WFMEは、医学部の基本医学教育、卒後医学教育、生涯医学教育の3つのフェーズに対するグローバルスタンダードを策定しています。これらの基準は、医学教育の質保証のための枠組みを提供し、各国・地域の医学教育認定機関がこれを参考にして自国の認定基準を策定しています。
2. 医学教育認定機関の認定(Recognition Programme)
2010年からWFMEは、医学教育を認定する機関自体を評価・認定するプログラム(Recognition Programme)を開始しました。このプログラムにより、WFMEは各国の医学教育認定機関が適切な基準と手順で医学部の評価を行っているかを審査します。WFME認定を受けた機関は、その評価プロセスが国際的に認められた水準であることを示すことができます。
3. 国際的な医学教育の質保証の促進
WFMEは、国際会議の開催や出版物の発行を通じて、医学教育の質保証に関する知識や経験の共有を促進しています。また、WHO、WMA、国際医学生連盟(IFMSA)などの国際機関とも連携し、グローバルな医療人材育成の質向上に貢献しています。
WFMEの認定システムの意義
医師の国際移動と質保証
近年、医師の国際的な移動が増加しています。経済協力開発機構(OECD)の報告によると、多くの先進国では医師の20%以上が外国で医学教育を受けています。医師の国際移動が活発化する中で、出身国に関わらず医師の質を担保することは患者安全の観点から非常に重要です。
WFMEの認定システムは、医学教育の質を国際的に保証する仕組みとして機能しています。例えば、アメリカ合衆国では2023年以降、外国の医学部出身者がECFMG(Educational Commission for Foreign Medical Graduates)の証明書を取得するためには、その医学部がWFME認定を受けた機関から認定されていることが条件となりました。
医学教育の質の向上
WFMEの認定を受けるためには、医学教育認定機関は厳格な基準を満たす必要があります。これにより、各国・地域の医学教育認定機関は自国の医学教育システムを改善し、国際的な水準に引き上げるインセンティブを得ています。結果として、世界中の医学教育の質が向上し、より質の高い医療人材が育成されることが期待されています。
世界の医学教育認定機関一覧
以下の表は、現在WFMEに認定されている世界各国・地域の医学教育認定機関の一覧です。これらの機関は、それぞれの国や地域において医学部の評価・認定を行っており、その評価プロセスがWFMEの国際基準に適合していることが認められています。
下記の機関によって現在認定されている医学部のリストを閲覧するには、各機関のウェブサイトをご覧ください。
機関 | 国 | 認定期限 |
---|---|---|
韓国医学教育評価院(KIMEE) | 韓国 | 2026年9月 |
医学校認定委員会(ACCM) | 特定のカリブ諸国:アンギラ、アルバ、ケイマン諸島、キュラソー、ドミニカ、ガイアナ、セントキッツ・ネイビス、シント・マールテン、セントビンセント・グレナディーン | 2026年12月 |
アラビア湾岸大学医学・医療科学部 | バーレーン | |
日本医学教育評価機構(JACME) | 日本 | 2027年3月 |
オーストラリア医学協議会(AMC) | オーストラリアおよびニュージーランド | 2028年1月 |
独立認定・格付け機関(IAAR) | カザフスタン、アゼルバイジャン、ベラルーシ、キルギス共和国、モルドバ共和国、パレスチナ、ルーマニア、ロシア連邦、タジキスタン、ウズベキスタン、ドミニカ、アルメニア、ベリーズ、ソマリア、バルバドス | 2028年1月 |
スーダン医療評議会(SMC) | スーダン | 2028年6月 |
国立教育品質促進センター(NCEQE) | ジョージア | 2028年10月 |
医学教育認定機構(IMEAc) | タイ | 2028年10月 |
インドネシア高等教育保健認定機関(LAM-PTKes) | インドネシア、バヌアツ共和国 | 2028年10月 |
オランダ・フランダース認定機構(NVAO) | オランダおよびフランダース | 2028年11月 |
メキシコ医学教育認定評議会(COMAEM) | メキシコ、コスタリカ、パナマ、エルサルバドル、グアテマラ | 2029年4月 |
国立教育品質保証・認定局(NAQAAE) | エジプト | 2029年4月 |
医学校認定システム(SAEME) | ブラジル | 2029年4月 |
台湾医学認定評議会(TMAC) | 台湾 | 2029年4月 |
学部医学教育評議会事務局(SCUME) | イラン | 2029年6月 |
学術認定委員会(CAA) | アラブ首長国連邦 | 2029年6月 |
キプロス高等教育品質保証・認定機関(CYQAA) | キプロス | 2030年2月 |
教育省医学教育認定作業委員会(WCAME) | 中国 | 2030年6月 |
アイルランド医療評議会(MCI) | アイルランド、バーレーン(アイルランド王立外科医師会医科大学)、マレーシア(RCSI & UCD マレーシアキャンパス、ペルダナ大学王立外科医師会医学部) | 2030年6月 |
高等教育機関認定品質保証委員会(AQACHEI) | ヨルダン、パレスチナ、シリア | 2031年9月 |
カタルーニャ高等教育品質保証機関(AQU) | スペイン(カタルーニャ) | 2031年10月 |
教育プログラム・組織認定機関(AAEPO) | キルギスタン、キュラソー | 2032年3月 |
ハンガリー認定委員会(MAB) | ハンガリー | 2032年3月 |
国立学術認定センター(NCAAA) | サウジアラビア | 2032年4月 |
アメリカ整骨医協会認定委員会(AOA COCA) | アメリカ合衆国 | 2032年8月 |
グレナダ医療・歯科評議会(GMDC) | グレナダ | 2032年9月 |
スペイン国立品質評価・認定機関(ANECA) | スペイン | 2032年10月 |
ユーラシア高等教育・医療品質保証認定センター(ECAQA) | カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン | 2032年10月 |
教育・訓練品質局(BQA) | バーレーン | 2032年11月 |
スリランカ医療評議会(SLMC) | スリランカ | 2033年3月 |
フィリピン学校・大学認定協会(PAASCU) | フィリピン、サモア | 2033年4月 |
マレーシア医療評議会(MMC) | マレーシア | 2033年4月 |
カリブ医学・他医療専門教育認定機関(CAAM-HP) | アンティグア・バーブーダ、バハマ、バルバドス、ベリーズ、キュラソー、ドミニカ、グレナダ、ジャマイカ、ガイアナ、モントセラト、セントルシア、セントキッツ・ネイビス、セントビンセント・グレナディーン、トリニダード・トバゴ、ドミニカ共和国、アンギラ、タークス・カイコス諸島 | 2033年5月 |
国家認定評議会(CNA) | コロンビア | 2033年6月 |
医学教育プログラム評価・認定協会(TEPDAD) | トルコ、パレスチナ国、オマーン、カタール、クウェート、レバノン | 2033年7月 |
スイス認定・品質保証機関(AAQ) | スイス | 2033年7月 |
国立医療委員会(NMC) | インド | 2033年9月 |
健康・社会科学認定機関(AHPGS) | ドイツ、オーストリア | 2033年10月 |
高等教育品質評価センター(SKVC) | リトアニア | 2033年10月 |
教育・訓練機関品質保証・認定国立センター(NCQAAETIs) | リビア | 2034年2月 |
パキスタン医療・歯科評議会(PMDC) | パキスタン | 2034年2月 |
医科大学認定国家評議会(NCAMC) | イラク | 2034年2月 |
カナダ医科大学認定委員会(CACMS) | カナダ | 2034年3月 |
イタリア国立大学・研究機関評価機関(ANVUR) | イタリア | 2034年3月 |
医学教育連絡委員会(LCME) | アメリカ合衆国 | 2034年8月 |
チリ国立認定委員会(CNA-Chile) | チリ | 2034年8月 |
スロバキア高等教育認定機関(SAAHE) | スロバキア | 2034年8月 |
国立大学評価・認定委員会(CONEAU) | アルゼンチン | 2035年1月 |
高等教育国立認定局(NAB) | チェコ共和国 | 2035年1月 |
高等教育評価・認定機関(A3ES) | ポルトガル | 2035年3月 |
現在認定申請中の機関
各機関は現在、記載されている国または国々においてのみ認定を申請しています。将来的にこれらの機関が他の国でWFME認定ステータスを獲得することを想定することはできません。
機関 | 国 |
---|---|
フランス語医学部・学部長国際会議(CIDMEF) | 特定のフランス語圏諸国(カメルーン、モロッコ、チュニジアを含む) |
高等教育学術認定・品質保証評議会(CAQA) | イエメン(プロセス一時停止中) |
高等教育評議会(CHE) | イスラエル |
ギリシャ高等教育機構(HAHE) | ギリシャ |
医学教育委員会(MEC) | ネパール |
ポーランド認定委員会(PKA) | ポーランド |
セルビア共和国高等教育認定・品質保証国家機関(NEAQA) | セルビア |
国立評価・認定機関(NEAA) | ブルガリア |
更新日:2025年1月13日 ©WFME
WFMEの認定プロセス
WFME認定を受けるためには、医学教育認定機関は以下のような厳格なプロセスを経る必要があります。
- 申請: 認定を希望する機関はWFMEに申請書を提出します。
- 自己評価報告書の提出: 申請機関は、WFMEの基準に基づいて自己評価を行い、詳細な報告書を提出します。
- 現地訪問評価: WFMEの評価チームが申請機関を訪問し、実際の認定プロセスやガバナンス、リソースなどを評価します。
- 評価報告書の作成: 評価チームは訪問評価に基づいて報告書を作成します。
- 認定決定: WFMEの認定委員会が報告書を審査し、認定の可否を決定します。
- フォローアップ: 認定を受けた機関は、定期的に進捗報告を提出し、再認定のための評価を受ける必要があります。
このような厳格なプロセスを通じて、WFMEは医学教育認定機関の質を保証しています。
日本医学教育評価機構(JACME)とWFME
日本医学教育評価機構(Japan Accreditation Council for Medical Education: JACME)は、2015年に設立された一般社団法人で、日本の医学教育プログラムを評価・認定する機関です。JACMEは2017年にWFMEの認定を受け、日本の医学部を国際基準に基づいて評価する権限を持っています。
JACMEの認定を受けることで、日本の医学部は国際的に認められた基準を満たしていることを示すことができます。これは、日本の医学生が将来的に国際的な舞台で活躍するための重要な土台となっています。
医学教育認定の地域的特徴と課題
地域による認定機関の分布の偏り
表を見ると、北米、欧州、アジア太平洋地域の認定機関が多い一方で、アフリカ地域の認定機関は少ないことがわかります。これは、医学教育の質保証システムが経済的・社会的な発展と密接に関連していることを示しています。
グローバルな医療人材の育成を考える上では、すべての地域で質の高い医学教育認定システムを構築することが重要です。WFMEは今後、特に資源の限られた地域での認定機関の発展を支援することが課題となっています。
国境を越えた医学教育の認定
近年、国境を越えた医学教育(越境医学教育)が増加しています。例えば、アメリカやイギリスの大学がアジアやアフリカに分校を設立したり、オンライン教育を提供したりするケースが増えています。
表中の注釈にあるように、WFMEは認定機関の越境活動に関する情報を整理し、次回の一覧表で詳細な情報を公表する予定です。この動きは、グローバル化する医学教育の質保証のための重要なステップとなるでしょう。
WFMEの今後の展望と課題
デジタル化・遠隔教育への対応
COVID-19パンデミックを契機に、医学教育においてもオンライン教育やシミュレーション教育などのデジタル技術を活用した教育方法が急速に普及しました。WFMEは、こうした新しい教育形態の質をどのように評価・保証するかという課題に直面しています。
今後、WFMEはデジタル時代の医学教育の質保証に関する新たな基準を策定し、認定機関がこれらの新しい教育形態を適切に評価できるよう支援していくことが期待されています。
医学教育の社会的説明責任の重視
近年、医学教育においては「社会的説明責任(Social Accountability)」の概念が重視されるようになっています。これは、医学部が地域社会のニーズに応え、健康格差の是正に貢献する医師を育成する責任を指します。
WFMEは、今後の認定基準において社会的説明責任の要素をより強化し、医学部がより社会的ニーズに応えた教育を提供することを促進することが期待されています。
医師のグローバル・コンピテンシーの育成
グローバル化が進む医療環境において、将来の医師には、文化的差異を理解し、グローバルヘルスの課題に対応できる能力(グローバル・コンピテンシー)が求められています。
WFMEは、医学教育のグローバルスタンダードにこうした能力の育成を組み込み、将来のグローバル医療人材の育成を支援することが期待されています。
まとめ
世界医学教育連盟(WFME)は、グローバルな視点から医学教育の質を保証し、向上させるための重要な役割を果たしています。WFMEの認定を受けた医学教育認定機関は、国際的に認められた基準に基づいて自国の医学部を評価しており、これによって世界中の医学教育の質が保証されています。
グローバル化、デジタル化が進む中で、WFMEはこれからも医学教育の質保証の在り方を進化させ、世界中の患者に質の高い医療を提供するための基盤を強化していくでしょう。日本を含む世界各国の医学教育関係者は、こうしたグローバルな動向を注視し、自国の医学教育システムを国際的な視点から継続的に改善していくことが求められています。
参考文献
- World Federation for Medical Education (WFME). Official website. https://wfme.org/
- 日本医学教育評価機構(JACME). 公式ウェブサイト. https://www.jacme.or.jp/
- van Zanten M, McKinley D, Durante Montiel I, Pijano CV. Medical education accreditation in Mexico and the Philippines: impact on student outcomes. Med Educ. 2012;46(6):586-592.
- Blouin D, Tekian A. Accreditation of Medical Education Programs: Moving From Student Outcomes to Continuous Quality Improvement Measures. Acad Med. 2018;93(3):377-383.
- World Health Organization (WHO), World Federation for Medical Education (WFME). WHO/WFME guidelines for accreditation of basic medical education. Geneva: WHO; 2005.
本記事は、WFMEの公式ウェブサイトおよび関連文献に基づいて作成されています。最新の情報については、WFMEの公式ウェブサイト(https://wfme.org/)をご確認ください。
©️ 2025 株式会社EUROSTUDY 代表取締役 宮下隼也