欧州の医学部入試問題を実際に解く:生物、化学の問題と解説 ⑵

はじめに
欧州の医学部入試は、学生にとって非常に重要なステップであり、そのためには基礎的な生物学や化学の知識が欠かせません。そこで、今回は、最近の入試問題から、特に生物学と化学の科目に関する理解がどのように求められているかを見ていきましょう。
欧州の医学部では、入試問題がますます多様化しており、単なる知識の暗記だけでなく、実践的な問題解決能力が重視されています。生物学の分野では、細胞生物学、生理学、遺伝学などが重点的に出題され、特に生理活性物質の役割や代謝経路についての理解が求められます。例えば、「エネルギー代謝におけるATPの役割について述べよ」というような問題が出てくることがあります。このような問題に対しては、単にATPの構造を説明するだけでなく、その働きについて深く理解し、具体的な例を挙げることが求められます。
一方で、化学の分野においても、特に有機化学や生化学に関連する問題が出題されることが増えています。例えば、タンパク質の構造と機能の関係のような問題ではアミノ酸の種類や性質などの知識が必要です。また、化学反応のメカニズムに関する問題も多く、具体的な反応式を書いたり、反応の条件について選択させる場合もあります。このように、欧州の医学部入試においては、基礎的な知識だけでなく、その応用力がますます重視されています。そのため、受験生は幅広い知識を身につけるとともに、実際の問題にどうアプローチするかを熟考することが重要です。株式会社EUROSTUDYでは、これらのトレンドを踏まえた効果的な学習法や最新の入試情報を提供し、受験生の成功をサポートしています。

それでは実際の問題をみていきましょう!
実践問題
問1.生物学
Describe the process of cellular respiration, including the main stages and where they occur within the cell. Explain the approximate ATP yield from one glucose molecule:
- A) Cellular respiration occurs in two stages: glycolysis and oxidative phosphorylation. Glycolysis takes place in the cytoplasm, while oxidative phosphorylation occurs in the mitochondria, resulting in roughly 30 ATP per glucose molecule.
- B) Cellular respiration includes three main stages: glycolysis (in the cytoplasm), the citric acid cycle (in the mitochondria), and oxidative phosphorylation (in the mitochondria), yielding about 36-38 ATP from one glucose molecule.
- C) The process of cellular respiration consists of five stages: fermentation, glycolysis, the citric acid cycle, electron transport chain, and ATP synthesis. The entire process occurs exclusively in the nucleus and produces 24 ATP per glucose molecule.
- D) Cellular respiration has three main stages: glycolysis (in the mitochondria), the citric acid cycle (in the cytoplasm), and oxidative phosphorylation (in the nucleus), yielding an estimated 18 ATP from a single glucose molecule.
- E) The process of cellular respiration involves two phases: the light-dependent reactions and the Calvin cycle. These processes happen in the chloroplasts and yield about 48 ATP from one glucose molecule.
問2.化学
Calculate the pH of a buffer solution prepared by mixing 0.2 M CH₃COOH (acetic acid, Ka = 1.8 × 10⁻⁵) and 0.3 M CH₃COONa (sodium acetate).
Given:
pKa = -log(1.8 × 10⁻⁵) = 4.74
log(1.5) = 0.18
Answer Options:
- A) 4.56
- B) 4.74
- C) 4.92
- D) 5.10
- E) 5.28
問題解説
問1.生物学問題解説
問題(日本語訳): 細胞呼吸のプロセスについて説明し、三つの主要段階とそれらが細胞内のどこで行われるかを述べなさい。また、グルコース1分子からおよそ何分子のATPが生成されるか説明しなさい。
正解:B)
Cellular respiration includes three main stages: glycolysis (in the cytoplasm), the citric acid cycle (in the mitochondria), and oxidative phosphorylation (in the mitochondria), yielding about 36-38 ATP from one glucose molecule.
日本語での解説
細胞呼吸は、グルコースなどの有機物からエネルギー(ATP)を生成するプロセスで、以下の3段階があります。
1. 解糖系:
– 場所: 細胞質
– プロセス: グルコース(6炭糖)が2分子のピルビン酸(3炭糖)に分解される
– 収支: 2 ATP、2 NADH生成
2. クエン酸回路(TCAサイクル):
– 場所: ミトコンドリアのマトリックス
– プロセス: ピルビン酸がアセチルCoAに変換後、完全に酸化される
– 収支: 2 ATP、6 NADH、2 FADH₂生成
3. 電子伝達系と酸化的リン酸化:
– 場所: ミトコンドリア内膜
– プロセス: NADHとFADH₂から電子が運ばれ、プロトン勾配を形成しATP合成
– 収支: 最大約28 ATP生成
グルコース1分子から生成されるATP量について:
グルコース1分子の完全酸化による理論的なATP収量は約38分子です。
- 解糖系:基質レベルのリン酸化により純益2 ATP生成
- 解糖系で生成される2 NADH:5-6 ATP
- TCAサイクルで生成される2 NADH(ピルビン酸からアセチルCoA生成時):5-6 ATP
- TCAサイクル:基質レベルのリン酸化によって、2 GTP(≒ 2 ATP)
- TCAサイクルで生成される6 NADH:18 ATP
- TCAサイクルで生成される2 FADH₂:4 ATP
しかし実際の生体内では、様々な要因により効率が下がります:
- ミトコンドリア内膜におけるプロトン漏出
- ATP合成酵素の機械的効率の限界
- 細胞質で生成されたNADHのミトコンドリアへの輸送コスト(グリセロール-3-リン酸シャトルやリンゴ酸-アスパラギン酸シャトル)
これらの要因により、実際の収量は理論値よりも低く、現在の科学的コンセンサスでは約 30-32 ATP分子と考えられています。
問2.化学問題解説
問題(日本語訳): 「0.2 M CH₃COOH(酢酸、Ka = 1.8 × 10⁻⁵)と0.3 M CH₃COONa(酢酸ナトリウム)を混合して作られた緩衝溶液のpHを計算しなさい。」
正解:C) 4.92
To calculate the pH of this buffer solution, we use the Henderson-Hasselbalch equation:
pH = pKa + log([conjugate base]/[weak acid])
Step 1: Identify the values
– pKa = 4.74 (given)
– [Conjugate base] = [CH₃COONa] = 0.3 M
– [Weak acid] = [CH₃COOH] = 0.2 M
Step 2: Substitute the values into the Henderson-Hasselbalch equation
pH = 4.74 + log(0.3/0.2)
pH = 4.74 + log(1.5)
pH = 4.74 + 0.18 (using the given value of log(1.5))
pH = 4.92
Therefore, the pH of the buffer solution is 4.92.
The other options are incorrect:
– Option A (4.56): This would result if log(1.5) was incorrectly subtracted instead of added.
– Option B (4.74): This is simply the pKa value without accounting for the concentration ratio.
– Option D (5.10): This would result if the ratio was calculated as 0.3/0.1 instead of 0.3/0.2.
– Option E (5.28): This would result if log(3.0) was used instead of log(1.5).
日本語での解説
緩衝溶液のpHは、ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式を使用して計算できます:
pH = pKa + log([塩基]/[酸])
まず、pKaを計算します:
pKa = -log(Ka) = -log(1.8 × 10⁻⁵) = 4.74
次に、式に値を代入します:
pH = 4.74 + log(0.3/0.2)
pH = 4.74 + log(1.5)
pH = 4.74 + 0.18
pH = 4.92
したがって、この緩衝溶液のpHは約4.92です。これは酢酸と酢酸ナトリウムの緩衝作用によるもので、酸や塩基が少量加えられても、pHの大きな変化を防ぐ働きをします。
この緩衝液のpH計算問題は、以下の点に関しての知識が問われております:
1. 酸解離定数(Ka)と酸解離指数(pKa)の関係
2. ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式(Henderson-Hasselbalch equation)の使用
3. 緩衝液の概念と、弱酸とその塩からなる緩衝液のpH計算
日本の教育課程では、この内容は主に高校3年生の「化学」で学習します。大学入学共通テストや国公立大学の二次試験、私立大学の入試でも頻出の内容です。特に医学部や薬学部などの理系学部の入試では重要視される分野です。
基本的な対数計算や酸塩基平衡の概念を理解していれば、高校生でも十分に解ける難易度の問題です。
緩衝溶液と欧州医学部入試の位置づけ:
ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式(pH = pKa + log([A⁻]/[HA]))は酸塩基平衡の理解において極めて重要な関係式です。この式は2024年の東京大学入試や2013年の京都大学入試でも出題されており、難関大学入試における化学平衡の理解度を測る重要な指標となっています。
欧州の医学部入試においても同様にこの概念は重視されていますが、その出題形式には特徴的な違いがあります。欧州の入試では、計算に必要な補助情報(対数値の計算結果など)が前提条件として与えられることが多く、純粋な計算能力よりも概念理解を重視する傾向があります。
この差異は、各教育システムの方針の違いを反映しています。日本の難関大学入試では、多段階の思考過程と計算能力を一体として評価する傾向にありますが、欧州では概念理解と応用力に重点が置かれています。この背景には、専門教育への移行時期の違いや、医学教育における基礎科学の位置づけの相違があると考えられます。
しかし、この違いは難易度の単純な優劣を意味するものではありません。日本の入試では計算プロセス全体を自力で構築する能力が問われるのに対し、欧州型では与えられた条件下での論理的思考と適切な公式選択の能力が評価されています。いずれにしても、緩衝液の概念と計算は医学・生命科学の基礎として世界共通の重要事項であり、化学平衡の本質的理解が求められる点に変わりはありません。
このような国際的な視点から入試問題を比較検討することは、グローバル社会における科学教育の多様性を理解する上で有意義であり、自らの学習アプローチを多角的に見直す機会ともなります。
※模擬問題について
これらの問題は、実際に欧州の某医学部入試問題として出題されたもので、一般的な海外医学部入試問題を想定したものです。
©️ 2025 宮下隼也 M.D.